ドラゴン・テイル

「……リムレット……」

 声なのか、ただ息を吐いただけなのか。
 自分でも区別が付かないほどの小声でつぶやくように答えたその声を、風は聞き逃さなかった。



 リムレット。


 汝が願い、聞き届けた。



 その声が耳に声が届くか否かの刹那。

 風が止んだ。










 ─……今のは何?! 誰の声だったの?


 はっと我に返ったリムレットは、今起きた現象を思い出して辺りを見渡す。
 全く聞き覚えの無い声。
まるで夢から覚めたばかりのように、リムレットは半ば呆然と立ち尽くした。

 離れた場所に、同じように立ち尽くしているウルの後ろ姿が見える。

 さっきの声、ウルも聞いたのかも!

 そう思うや、リムレットはウルの元へ走り出した。

「ウル! ねぇ、今さっき……」

 ぐるるるる……っ


 低い重低音。

 リムレットの言葉を遮るように、体の芯に響く音が辺りに響いた。

 見ると、町の入り口にいるモンスターの近くにもう一つの巨大な影があった。

 ぅるるるるぅぉぉぉぉっっ

 その影は、空に向かって立ち上がり、大きく咆哮した。

 巨大な背から左右に延びる大きな翼。

 町を襲おうとしているモンスターの倍程の大きさがあるその漆黒の体は、光さえも反射することのない、まさに「影」そのものだった。

「……ド、ドラゴン………」

 呆然と呟いたその言葉は、ウルのものなのか、リムレットのものなのか。

 目に写るこの光景が本物なのかすら、二人には分からなかった。

 モンスターと対峙し、空に向かい雄叫びを上げたドラゴンは、その視線を一瞬リムレットに向ける。

 影にしか見えず、どこに目があるのか分からないリムレットには、その視線に気づく術がなかった。

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