シムーン
そう思った時、唇が温かいものに触れた。

彼女の唇だった。

肉づきのいい唇の感触に、落ちそうになる。

思いの通じあったそのキスは、甘かった。

彼女と結ばれた――そう思ったら、俺は嬉しくなった。

余計なことだったとしても、もう構わない。

彼女と結ばれたことがこんなにも嬉しい。

彼女の唇が離れた。

離す時は、シールを剥がすのような丁寧さだった。

「――グロス、ついてる」

キスした時に剥がれてしまった彼女の唇が動いた。

彼女の手が俺に向かって伸びてきた瞬間、俺はその手をつかんだ。
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