シムーン
驚いている私に、彼は何事もなかったと言うように手を離した。

サラリと、彼の手から髪がこぼれ落ちた。

彼は何も言わず、そのまま私の横を通り過ぎた。

今のは一体何だったんだ…?

私の心臓は、止まることを知らないと言うように早く鳴り続けていた。

彼が髪に触れて、口づけをした――それらの動作が長く感じられたのは、私の気のせいだろうか?

それらの動作の中で、私は彼にこんな印象を抱いた。

彼は、蜘蛛だ――罠を仕掛けて、相手を誘い込む蜘蛛である。

彼はまさに、それだと思った。

それらの動作で、私が感じた彼の印象だった。
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