アリィ
「ごめんなさい、そのあたりに私の携帯……」
父の背中から若い女性が顔を出す。
彼女はまるで当たり前のように自然に、父の腕に手を絡めた。
ゆるい巻き毛の、スラリとした美人。
私は彼女のことを知っている。
「おい、ちょっと……」
「あ、もしかして、部長の娘さん?」
部長。
女性は私の存在に気づくと、何事もなかったかのように父から手を離した。
あわてている父がおかしいと思えてくるほど、彼女は普通だ。
それを見て、父はようやく冷静にならねばならないことを思い出したらしい。
「あ……あぁ、これが娘の由紀子」
「由紀子ちゃん?可愛らしいお嬢さんですね」
嘘ばっかり。
汚いジャージにトレーナーの寝起き姿が可愛いわけない。
それよりも私に『可愛い』という言葉を投げかけること自体が嘘だ。
しかも、あんな綺麗な顔をして自信満々に白いスーツを着ている女性が、自分以外の女を肯定するなんてありえない。
いや、私なんて女だとも思っていないだろうに。
こんなあからさまに嘘をつかれて、見下されて、私は『ブス』とののしられるよりも傷ついた。