アリィ
すりむいた膝小僧
父の裏切りを知ってから、一夜。
いつものように目覚まし時計の音で目を覚まし、いつものように朝食を食べ、身支度を整えて家を出た。
今日は一段と寒くて、体が縮こまって、ひゅうひゅう叫ぶ北風が耳を痛めつけた。
途中で石につまづいた。
倒れる、と思った瞬間、体をかばうためにとっさに手が出た。
地味に転んで、膝をすりむいてしまった。
皮膚に小石がめりこんで、ところどころに血がにじんだ。
痛くて生理的な涙が目尻にたまった。
そのすべてが、奇妙に思えた。
どうして私は動いているんだろう、どうして私はこの体をかばうのだろう、どうして私は痛いと感じるんだろう。
変わらない日常を過ごしている自分が不思議でならない。
血が出てくることさえ、許せなかった。
父に最低の裏切り方をされたのに。
もう誰も信用できない、私はひとりきりなのに。
なんで私、生きてるの?