アリィ
二時間目が終わってから、ふらふらと教室に戻った。
ああ、そういえばあの人朝からいなかったわね。
その程度のしらけた視線をちらほら浴びていると。
「あ、ゆっぴー!大丈夫?」
案の定飛びついてきたアリィ。
また涙腺がゆるみそうになって、唇をへの字にしてこらえる。
「もう、大丈夫だから」
そう言って、つかつかと席につく。
少しでも気を抜いたら自分が保てなくなりそうで、つっけんどんな態度しかできない。
そのせいか、アリィは少し遠慮気味に「大丈夫ならいいけど……」と内股で肩をすくめている。
「うん、大丈夫だから。気にしないで」
私は、初めて心からアリィに気をつかって、言葉をかけた。
あんまり喜ばしいことじゃないけど、私にはアンタしかいないから。
大切さに気づけたから。
照れくさくてうつむいていると、アリィが突拍子もないことを聞いてきた。
「ねえ、ゆっぴー。あの、クマちゃんは……?」
クマ?
あの、『親友の証』のことか。
しばらくは通学カバンにつけておそろいにしようって毎日しつこかったけれど、最近はぱったりそんな話しなくなっていたのに。
何の前触れもなく、なんなんだ。
「あれは……家にあるって、何度も言ったでしょ」
眉をひそめながら答えると、アリィは「そっか」と笑った。
そのとき丁度三時間目の始まりを告げるチャイムがなったので、会話はそこで途絶えた。
不思議に思って、ちらりと盗み見た隣の席のアリィは、今までに見たことがないような、感情のない顔をしていた。