アリィ
結局、自由行動はお流れになった。
教室や廊下に貼られた展示物は、それを作った生徒各々で撤去するようにとのお達しが出た。
そして、それを終わらせたらすぐに下校、とのことだった。
「せっかくみんな頑張って完成させてくれたのに、ごめんね」
どこか疲れた顔をしている麻生先生が、つらそうに言う。
絶対に何かあったはずなのに、そしてそれはおそらくノア達に関わりのある出来事で、
さらにはどこかへ行ってしまったアリィにもつながることであるだろうに、麻生先生は何も言わない。
ただ、ごめんね、と言うだけだ。
クラスメート達はためらいながらも、おとなしく文化祭の後片づけを始めた。
私も、教室の後方、一番右端に貼りつけてある広用紙を片づけるべく、その前に立った。
『生活排水が自然環境に及ぼす影響』
そのタイトルの下には、私とアリィの名前が寄りそっている。
たしかに、これを書いたのは全部私だけど、二人の作品だったはずだ。
ここに貼るときだって、一緒に貼ったのに。
棚によじのぼり、広用紙の上部を止めているセロテープをはがす。
右はじを取って、左はじも取ると、ぱしゃん、と大きな音を立てて広用紙は私の足元へ丸まって落ちた。
その音に反応した周囲の子が、いっせいに私のほうを見る。
誰も、何も言わない。
「やだゆっぴー、何してんのぉ?」
くねくねしながら私の肩を叩いてくる者など、ひとりもいない。
先日やっと導入された新しいエアコンのおかげで教室内は適温に設定されているはずなのに、ひどく寒く感じる。