アリィ
第五章
金髪とピンクのクマ
できるだけ何も考えないようにして、翌日をむかえた。
何か考えたら、息が止まってしまいそうだった。
だから一生懸命頭を真っ白にしようとしても、去っていくアリィの後姿の残像が、ふとよみがえって、そのたび吐きそうになる。
どうあがいても気になるのだ、アリィのことが。
あんなに嫌っていて、受け入れることを認めたくなかった過去など、もうどうでもいい。
いつもより三十分も早く登校した私は、席に座って正門から校舎へ流れて行く生徒の波を見守っていた。
今日も『運命の分かれ道』には、五十嵐先生が立っている。
上下揃いの青のジャージ姿で。
よくもまあ、飽きもせずに髪の色とスカートのすそばかり見ていられる。
五十嵐先生にとって、生徒とは校則を順守している者とそうでない者、どちらかに属している記号でしかないのではないだろうか。
パズルゲームに熱中している子供と一緒だ。
それならば、徹底してカナエ達のような違反者を駆逐してほしかった。
あんな奴らが身近にいなければ、アリィが『ギャル』に憧れを抱いていたとしても、
あそこまでのめりこむことはなかったかもしれないのに。
そうしたら、アリィはずっと私の隣にいたのに。……
「この前カナエ達さぁ」
その名前が耳に飛びこんできて、肩が少し揺れた。
反応せずにはいられなかった。
少し離れたところにいる女子のグループが、会話をしている。
机に頬杖をついて窓の外を眺めている体勢のまま、聴覚だけが研ぎ澄まされ、耳が勝手にその女子たちの会話を盗む。