アリィ
呼吸のやり方さえ忘れてしまいそうなほど息を止めていた。
だんだん苦しくなってくる。
でも息をするのが恐い。
今の私は酸素にさえ見離されそうだ。
苦しい、苦しい、苦しい。……
回らない頭でうつろに視線を泳がせていたら、ふと机の上の黄色が目についた。
不細工なクマのマスコット。
アリィとの『親友の証』。
そうだ。
アリィのカバンには、今日もピンクのクマがぶらさがっていた。
あんなに姿かたちを変えていたのに、それだけは変わっていなかった。
まだ、アリィの心の中には私がいるのかもしれない。
そう思ったら息ができた。
まだまだ生きられる。
アリィがいてくれれば。
私はベッドから降りて、机の上のクマに手を伸ばした。
母は死んでしまった。
父にも裏切られた。
でも、アリィは死んでいないし、私のことを忘れてもいない。
体の奥からむくむくと勇気がわいてくる。
きっと取り戻せる。
黄色いクマをカバンにくくりつけながら、私は唯一の居場所を自分の力でつかみ取ってみせる、という一世一代の決意を胸にかかげた。