アリィ
「こんなの、いらない」
アリィは、カバンから乱暴にクマをもぎ取ると、それを思い切り地面に叩きつけた。
クマはバウンドして、ころころと転がり、私の足元であおむけに止まった。
焦点の合わない黒いプラスチックの瞳は、虚しく空を見上げている。
私は、動けなかった。
いつのまにか周囲の生徒達はまた流れ始めていて、気がつけばアリィ達はいなくて、正門の向こうから五十嵐先生の怒鳴り声が聞こえてきた。
自分達の信念を貫くために、また彼女達は戦うのだろう。
そこに、私の介入する隙間などないのだろう。
どこかかすんでいる視界の下で、いまだクマが倒れている。
アリィに投げ捨てられた、『親友の証』。
のろのろとしゃがみこみ、拾い上げ、自分のと比べてみる。
毛並みがつやつやなままの綺麗な黄色いクマと、毛がぽそぽそになって黒ずんでいる汚いピンクのクマ。
まさに私達の象徴だった。
私の中でアリィは変わらず『親友』のままだけれど、アリィの中で私はこのピンクのクマみたいにどんどん姿を変えていったんだ。
これはもう、あのときのおそろいのクマじゃない。
私達も、もう親友じゃない。
二匹のクマを握りしめてうずくまったまま、始業のチャイムを聞いた。