アリィ
変身
学校には行けなかった。
気がついたら、いつもの駅の、トイレの個室の中にいた。
制服を着ている子供が平日の日中に存在していい場所なんて学校以外にないことを私は無意識のうちに分かっていて、
それで誰の目にも止まらない絶対不可侵の孤独な箱に逃げこんだのだと思う。
あまり記憶がない。
ただ手が、足が、体の芯から震えが止まらなかったことだけを覚えている。
洋式の便座にふたをして座り、二匹のクマを握りしめながら、ずっと震えていた。
二回ほど清掃員がやってきてガタガタと音を立てては出て行った。
でもさすがに三回目になっても一番奥のドアが閉まったままなのを不審に思ったらしく、
ぶしつけなノックのあとに中年のしわがれた女性の声がした。
「どなたかお入りで?」
これ以上ここにはいられないと判断した私は、場をつくろうことさえせず、無言で個室を飛び出した。
清掃員の女性がどういう顔をしていたかなんて、見ることもせずに。
外に出ると、五時間目の授業が始まって少し経ったくらいの時間だった。
もう、家に帰っても許されるだろう。
ずいぶん長いこと閉じこもっていたものだ、と感心することもなかった。
頭は少し動くけれど、心は全然動かなかった。