アリィ
――お母さんのところに、行きたい。
でも、母は首を縦に振ってはくれなかった。
柔らかい笑顔でもう一度私を抱きしめると、名残惜しそうに離れ、そのままどこかへ歩き出した。
追いかけることは、しなかった。
母の言わんとすることは分かったのだ。
私はまだ、苦しみ続けなければならないらしい。
初めて見た母の背中。
もう、夢でさえ会えなくなるのだな、と思った。
それなら、しっかりと焼きつけておこう。
母の背中を、ほほえみを、ぬくもりを。
私を苦しみばかりの世界に産み落とした張本人は、とても穏やかに消えていった。
不思議と憎しみは湧いてこなかった。
私が消えるときも、ああして穏やかに消えることができるだろうか。
ただ、そうぼんやりと思って、目を閉じた。