アリィ
その日も、私はぼうっと天井を見つめていた。
出された朝食にひとつも箸をつけないでいたら、看護師のお姉さんがたっぷりとした点滴袋を持ってきた。
「ちゃんと食べないと、治るものも治らないわよ。
点滴じゃ、おいしくないでしょ?」
腕は穴だらけになってしまったので、管は手首に繋がれた。
うんともすんとも言わない私を見かねて、ベッド脇で本を読んでいた父が「すみません」と謝った。
看護師は父に苦笑を残して病室を去って行った。
「なあ、由紀子。そろそろ何か食べないとなあ」
へらへらとしていた父が、「おっ」とポケットをまさぐる。
携帯電話が着信を知らせるために震えていた。
「もしもし。ああ、いつもお世話になっております」
電話に出るなり父は立ち上がり、誰もいないドアに向かってぺこぺこおじぎをした。
「はい、はい、申し訳ございません……今すぐそちらへ向かいますので」
そして終話ボタンを押すと、神妙な面持ちでこちらへ振り返った。
「麻生先生が、また来てくださったぞ」
言外に「今日こそお会いしなさい」と強要される。
でも私は何の反応も示さなかった。
無言のまま天井を見ていると、父は肩を落として病室から出て行った。
そういえば、父はため息をつかなくなった。
こういうときには絶対に、不満をあらわにしていたのに。
そんなことを考えて、でもすぐに打ち消して、また天井を見つめた。