アリィ
「も、申し訳ございません」
おばさんが、あわててカウンターから出てきて小銭をかき集め始めた。
いい気分に……ならない。
しゃがみこんでいるおばさんを上から眺めていると、その背中の丸さ、制服をはちきれんばかりに張りつめさせる肉の感じがなんとも惨めで、
刻まれた年輪、パート勤めで支えなければならない家計の事情、きっと人間臭い事情、
そんな背景を嗅いでしまったことがやるせなくて、どうしてこんな思いをわざわざ自らすすんでしているのか、もう嫌になる。
朝食といい、このことといい、すっきりしたくてこんなひどいことを思いつき実行してしまう私は、頭がおかしいのではないか。
おばさんは謝りながら、もう一度おつりを差し出してきた。
今度はそれをしっかり受け取ると、素早く深く頭を下げ、弁当の入った袋をひっつかんで逃げるように店から飛び出した。
罪悪感に追いかけられている気がして、そこから家まで私は走り続けた。
今日は、ついていない。
あの夢はみるし、アリィの妙な部分を垣間見てしまったし、自己嫌悪におちいることばかりしてしまうし。
しかも家のカギがカバンの奥に入りこんで、なかなか見つからない。
オートロックの前で大きなカバンと一人格闘する姿は、実に無様。
誰かが通る前になんとかしたいが、あせればあせるほど無駄な動きばかりしてしまう。
やっとの思いでカギを探し当ててオートロックを解除すると、イライラが絶頂に達した私は、
エレベーターを使わずにわざわざ階段で五階まで駆けのぼり、乱暴にドアを開けてリビングのソファに荷物をなにもかも投げつけた。
嫌な音がした。
おそるおそるカバンを退かすと、すっかりその存在を失念していたコンビニの袋が下敷きになっていた。
大惨事を予想して泣きそうになりながら袋の中身を取り出すと、のり弁は二つとも軽症ながら原型をとどめ無事だった。
ただ、割り箸は一膳折れていた。
脱力。
もう疲れ果ててしまった。
弁当をテーブルの上に置く、という動作だけで精一杯で、私は自分の部屋へ倒れこむと、着の身着のままベッドへ倒れた。