アリィ
「由紀子。晩飯食わないのか?おい、由紀子」
気がつくと、父が私になにやら呼びかけていた。
真っ暗な部屋の中、少し開かれたドアの隙間から差しこんでくる強烈な一筋の光が目にしみる。
その光を頼りに時計を見ると、もう夜の八時を回っていた。
夕方からすっかり寝入ってしまったらしい。
「お父さん……今帰ってきたの?」
「ああ。帰ってきたら弁当はテーブルに置いてあるままだし、カバンは放り投げてあるし……どうしたんだ?」
「なんでもないよ」
「ん?なんだお前、制服のまま寝てるのか?
中学生が、なにをそんな疲れたOLみたいな真似してるんだ」
「……なにそれ」
「ほら、なんでもいいから飯食うぞ。起きてこい」
妙な時間に熟睡してしまったので、頭がぼうっとしていまいち目の前の光景に現実味がない。
光に慣れない目を細め、むくんだ体を無理矢理動かしてダイニングへ向かうと、弁当はすでに温まっていて私に食べられるのを待っていた。
「お前は芸がないなあ、いつものり弁じゃ飽きるだろう」
そう言いながら、父は勢いよく食べ始める。
私も箸を持ったが、起きたばかりなので食が進まない。
いつもは気にならないコンビニ弁当の濃い味や油が、今は重たい。
「この弁当、容器がゆがんでないか?」
「知らない。新パッケージなんじゃないの」
適当すぎて嫌味ともとれるような返事をして、白米の部分だけ少しずつ口に運ぶ。