アリィ
間一髪だった。
経血が応急処置のティッシュを侵略して下着にまで攻め入り、
ズボンを汚そうとする一歩手前で、なんとかしかるべき対処をほどこすことができた。
経験がなくても教えられなくても、こういう知識は知らず知らずのうちに不思議と身についているもので、
『モノ』の使い方にはさして戸惑わなかった。
しかし、闘い抜いて赤黒く侵されたティッシュは凄惨の一言で、それにはやはり怯んだ。
これが人間の生理現象。
世の女性たちは、いくらそれを綿やらビニールやらで受け止めて普通を装っていても、
実際は『その間』ずっと体液を垂れ流しっぱなしで過ごしているのだ。
どんなに科学が進歩しても、繁殖を望む限り、その不便を変えることは決してできない。
実に、動物的。
実に、野性的。
死んだ体をかろうじて精神で操っているような毎日を過ごしていた私には、この生き物臭さは、新鮮な発見だった。
私の体も生きていて、日々刻々と変化を続けているのだ。
そう思うと、血まみれのティッシュが私にとって価値あるもののような気がしてきて、胸が高鳴って、
でもこの高揚感が異常であることは自覚できていたので、捨てられなくなる前にトイレに流した。
さよなら、私の生きてる証。
そして初めて装用したそれは、先ほどのティッシュよりよほど付け心地がよかった。
でも、ちょっとおむつみたい。
みんなこうして過ごしているのだし、これに慣れていかなければならないんだ。
くすぐったくもあるし、面倒でもある。
ひととおり感慨にふけったあと、トイレットペーパーをレジ袋に押しこみ中が見えないようにすると、私はやっと落ち着いた。