アリィ
子供部屋を出ると右手にダイニングキッチン、左手にリビングがある。
リビングにはいつの季節だってカーペットなど敷かれることはなくフローリングがむき出しのままで、
手前に三人掛けのベージュのソファ、真ん中には触ってもいないのに手あかでくもったガラスのテーブル、壁際にはテレビ。
家具といったらそれだけしかないのに雑然として見えるのは、ベランダへ続く窓を隠している古いカーテンのせいだ。
点と線でできたマヌケな小人の顔が無数に散らばっている上、使われている色が多くて混沌としている。
好きではないのだけれど、長年見続けているし、意識しているぶんだけ愛着もあって、
もはや安心感すら抱かせるそれを、買い換えてほしいとは思っていない。
そんなカーテンを景気づけにシャッと音を立てて開け、両端にまとめる。
まだ明るくなりきれない光がなだれてきて、よけいに体がだるくなった。
振り返ると、二人暮しをするには大きすぎる空間が広がっている。
覚えていないくせに、母がいたころはもう少し華やかだったような気がする。
壁にかかった振り子時計は、もうすぐ七時になろうとしているところ。
朝食を作るのは私の役目だ。
洗面所へ向かうあいだに、何を作ろうか考える。
トーストにスクランブルエッグ、コーヒーは父が勝手に入れるだろう。
適当でいい。
毎日毎日人間は性懲りもなく腹を減らすけれど、私の頭の中の献立はもう随分前からネタ切れだ。