アリィ
その途中、見覚えのある後ろ姿が視界の端をかすめた。
あの背丈、白髪まじりの短髪、チャコールグレーのスーツ……
どう思い返しても、その男性は父にそっくりだった。
でも今日は仕事だと言っていたから、もともとこんなところにいるはずない、
という思いこみもあって、私は立ち止まらなかった。
なによりその男性の隣には、緩い巻き毛のスラリとした美人が寄り添っていた。
父が若い女の人に相手をしてもらえるわけがない。
だって、あんなに臭くてダサくて無神経なのだから。
きっと一瞬、他人が知人に見えただけ、よくあること。
私は深く考えずにデパートを出た。
そして、そこから一心不乱に歩いて家に着いたころには、そんな些細な出来事などすっかり忘れていたのだった。