アリィ
駆け足で廊下を突っ切っていく。
放課後の喧騒を引き裂くことだけに専念する。
まばたきはしない。
目尻に集まろうとする水分を、私は許さない。
ただでさえ下から赤い水を流しているのだから、これ以上体液の無駄使いはできない。
そんな私をあざ笑うかのように増していく視界のうるおいを殺したくて、階段の踊り場の窓から差しこむ夕陽を直視した。
焼けつくような光を期待したのに、それは淡いみかん色をして世界を優しく照らすばかり。
それどころか、ガラスの向こうの部活にいそしむ生き生きとした生徒達まで見えてしまって、みんなして私の水をこぼそうとせっついてくる。
もういい。
窓の景色を見限って目をふせようとしたら、視界のはしっこに、見覚えのある人影を見つけた。
無駄に髪の毛をなでつける回数が多くて、スポーツ選手にあるまじき非効率的なひよこ走り。
忌々しい、その仕草。
アリィだ。
こんなところからテニスコートが見えるなんて、今まで全然気づかなかった。
二面並ぶコートの中、テニス部の面々に交じって、アリィもラケットを持ち駆けまわっている。