アリィ
「あのね、これ夏休みの部活のスケジュール!」
聞いてもないのに、いちいち報告してくるのが、この女だ。
「へえ。アリィは部活してたっけ」
知っているけれど、なんだか腹が立つので知らないふりをしてみる。
「忘れてたの?テニス部だよお」
「そうなんだ。それにしては全然それらしくないね。さっきの人はすごく日焼けしてたのに、アリィは真っ白じゃない。
ちゃんとやってるの?」
「やってるよう。アリィはお肌を守るために日焼け止めをしっかり塗ってるの。
みんながお肌のお手入れに鈍感すぎるんだよ」
そうですか。
でも、その筋肉のない足はどう見てもスポーツをやっている人のものではないですけどね。
というのはさすがに嫌味すぎるので言わないでおく。
あの日、夕陽の中で部活に参加している姿を見ているから、きっとそれなりにやっているのだろうことは知っているのだ。
それには、おそらくさっきの子をはじめとする他の部員の寛大な心と多大な容赦というバックグラウンドがあるに違いないけれど。
お悔やみ申し上げます、と手を合わせる私を尻目に、アリィはスケジュール表を見ながらひとりごとを始めた。
「えー、休みが少ない……合宿もあるの?最悪……でも、もう先輩は引退したから、ずいぶん楽になるかなあ」
自分が望んで参加しているくせに、なぜ休みたがる。
だから、やる気がないなら辞めてしまえ。
向上心を持って頑張っている人の迷惑だし、なにより適当にでも続けていれば、
「テニス部に所属し、三年間頑張りました」と内申書に書けてしまう。
そんなの不公平だ。
「あ、最後の三日は休みだ。やったあ」
そのあとも、アリィは一人で夏休みのスケジュールについてぶつぶつ言っていた。