アリィ



……結局、言えなかった。


険悪な雰囲気のまま、二人でちぢれたチープな細い麺をすすって、それで昨日は終わってしまった。


どうしよう。


もうすぐまた生理が来るのに。


節約のためには自炊が一番なんだろうけど、それはできない。


私は卵を割って焼くか、野菜をちぎることしかできない。


小学三年生のとき、新聞に載っていたレシピを見て、和風ハンバーグを作ろうとしたことがあった。


でも出来上がったのは、食器と食材が散乱したシンクと、焦げて異臭を放つフライパン、

そして今でも消えない右の手首のヤケドの跡。


私に料理を教えてくれる人なんて、いなかった。


それなのに、「朝は味噌汁がいい」なんて言うあの男はどういう神経をしているんだ。


あんな人間、消え失せてしまえばいいのに。


うろんな目で登校すれば、アリィがまっさきにひっついてきた。


私が早く登校するようになってから、どうやらこいつは誰にも迷惑をかけることなく、

私だけに迷惑をかけるためにドアの付近でそわそわと私を待っているらしい。


いいことじゃないか。


あの日進言してきた女子たちも、さぞ満足していることだろう。


ちら、と彼女たちの方を見ようとして、やめた。


私のことを気に病んでいるだろうと予想するのだって、期待だ。


期待は裏切られる。


きっとあの日のことなど忘れて、自分たちの快適な毎日を過ごすことにのみ夢中でいるのが現実だ。
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