アリィ
スープを口に含むが、喉を通らない。
スクランブルエッグを箸でつついても物悲しい。
父がパンを噛んでくちゃくちゃと湿った音を出している。
鼻の下を伸ばしながら縦に四つ折りにした新聞を読みふけり、ときおり伸びかけたあごのヒゲをなでてジョリジョリ鳴らす。
耐えられなくて、私は席を立った。
「もう食べないのか?」
また返事はしなかった。
手をつけていない皿をキッチンへ持っていき、ひっくり返す。
パンが、卵が、野菜が、ゴミ箱に飲みこまれていく。
自らの手で料理にした食物を、私はまた自らの手でゴミに変えた。
もったいないことをすれば気が晴れると思ったのだ。
しかし、その光景はただ痛々しく胸がえぐられるだけだった。
やりきれない思いをぶっ飛ばしたくて、冷蔵庫を開けて1.5リットルボトルのコーラをラッパ飲みした。
炭酸に喉を焼かれて眼球がこぼれそうになる。
「おい、なにしてるんだ?」
冷蔵庫の裏から父の声がした。
「……なんでもない」
少しむせたあと、私は冷蔵庫の中に返事をした。