ショコラトリー
 翌朝も同じ時間に起き、チョコレート作りに取りかかりました。
 溶かしたチョコレートをテンパリングし、型に流し込んだり、マカロンを焼いたりと、そんな慌ただしいこの時間が、唯一何も考えないでいられる大切な時間なのです。


 口元に微笑みを浮かべ、一つ一つ丁寧に心を込め作るチョコは、毎日違う表情を見せ、一つとして同じ形をしていません。
 周りから見れば、きれいに整ったチョコレートでもショコラに違って見えるのです。
 今日はどんなチョコレートにしようかしら?と考えるとき、ショコラはいつも楽しそうな顔をしています。
 この間考えたチョコレートは、スタッフに好評でした。
 いつもの時間にopenの札を返し、毎日違う曲を流す。


 いつもと同じ慌ただしい人々を眺め、クヴェルが来るのをドキドキしながら待っていました。
 チリンチリン♪
 ドアベルの音に時計に目を移しました。
 いつもより早いクヴェルの登場に驚きながら、少し遅れて言葉を掛けました。


『いらっしゃいませ』


「やあ、ショコラ。」


『おはようクヴェル。』


 いつもと変わらぬ挨拶を交わすと、跳ね上がる鼓動を抑えながら、いつもより早い訳を聞いてみました。


『今日は、いつもより早いんですね?』


「ああ、昨日の返事が気になってね。
今日のオススメは?」


 爽やかな笑顔を向けられ、しどろもどろになりながら、新作のボンボンショコラをクヴェルに渡しました。


「ありがとう。」


 デキュスタシオン(試食)を済ませたクヴェルは、笑顔で同じ物を購入しました。


「昨日の返事、考えてくれたかな?」


『あ、はい。』


 ショコラは今にも飛び出しそうな鼓動を抑え、ショーケースを眺め返事をしました。


『本当は、昨日お返事をしたかったのですが……』


 ショコラは深呼吸をし『お時間、空けておきます。』と精一杯微笑みました。


「よかった。
それじゃあ、明日でもいいかな?」


『……少し、待っててください。』


 ショコラはクヴェルを待たせ、奥へと入って行きました。
 カレンダーとにらめっこし、予定を確認すると再びクヴェルの元へ戻り『大丈夫です』と返事をしました。


「それじゃあ、明日の朝9時に迎えに来るから、オシャレして待っててね」


 クヴェルは上機嫌で店を後にしました。
 クヴェルが居なくなったお店では、ショコラが喜びを抑えていました。
 裏では、話を聞いていた従業員が嬉しそうに笑っています。
 と、そこに、お客様が入って来ました。
今日も忙しくなりそうです。

< 14 / 22 >

この作品をシェア

pagetop