ショコラトリー
 クヴェルが連れてきてくれたのは、路地裏にある小さな喫茶店でした。
 そこでクヴェルが注文したのは、フランスパンのサンドウィチでした。
 フレッシュなレタスにトマトにハムに粒マスタードがピリリと効いた、ショコラはあまり食べないものでした。


「こうしてかぶりつくんだよ」


 両手でサンドイッチを掴み、大きな口を開けかぶりつきます。
 ショコラもクヴェルに習い同じようにかぶりつきました。


「お嬢さん、付いていますよ」


 クヴェルの指がショコラの唇に触れました。
 瞬間、ショコラの穏やかだった心臓が一気に跳ね上がりました。
 口のはしについたマスタードをショコラに見せ、にっこり微笑みます。


「女性にはすこし大き過ぎるみたいですね」


 恥ずかしさに、顔を伏せると「デザートも美味しいんですよ?」とメニューを見せてくれる。
 たくさん並ぶ甘い名前の中から、イチゴパフェを注文しました。


「チョコレートではないんですね」


『はい、自信がなくなりそうなので、外でチョコレートはあまり食べないんです。』


「そうなんですか」


 食事に夢中になっていた二人は、時間がたつにつれ、会話がメインになっていきました。
 クヴェルが話せば、ショコラが笑顔で聞き。
 ショコラが話し出せば、今度はクヴェルが。という具合に食事そっちのけで話し込んでいた二人がふと周りを見渡すと、食事をしてるのが自分達だけなのに気づきました。


「お昼、いつの間にか過ぎてたみたいですね」


『みたいですね』


「……そろそろ出ましょうか?」


『はい』


 ショコラは笑顔で返事をしました。
 カフェを出ると、賑やかな街に眩しい太陽が光を差しています。
 いつも見てる石畳の道も、今日は一段と輝いて見えます。
 ショコラは思わず立ち止まり、目を閉じ空を仰ぎました。


『暖かくて気持ちいいですね』


「こんなに天気がいいと、ピクニックしたくなりますね?」


『え?』


「手作りのお弁当なんか持って。」


『本当ですね…』


「そうだ、今度晴れたらピクニックしましょう!」


『いいですね』


 再び歩きながら、次に会う約束を交わし、自然にクヴェルの隣を歩けるようになっていました。


「晴れるといいですね。」


『ですねぇ』


2人は空を見上げ、ニッコリ微笑みました。

< 19 / 22 >

この作品をシェア

pagetop