愛してあげる!
「瑞樹先輩っ!ダンボール持つの手伝います!!」
「ホント?助かるな」
アーモンド形の瞳がきゅっと細くなる。
やっぱりそんな優しい笑顔にときめいてしまうあたしは、瑞樹先輩に差し出されるダンボール(もちろん一番小さいやつ)をぎゅっと抱きしめた。
「夏乃、ごめんね。ちょっと待ってて」
「はいはい。私のことは気にしないでゆっくりしておいで」
夏乃はそう言ってひらひら手を振った。
もう一回ごめんね、と謝ってあたしは瑞樹先輩に「行きましょう」と微笑む。
その笑いに“苦”を入れたいのを、必死に堪えた。
「あぁ」と頷いた瑞樹先輩は、そこにいたサッカー部一同に「じゃぁな」と顔だけ向けて挨拶して、あたしの隣を歩き出した。
「───驚いたな」
「・・・」
「まさか、また妃那ちゃんから話しかけてもらえるなんて、さ」
廊下を歩きながら、小声で瑞樹先輩が呟く。
歩く廊下は活気に溢れていて、あたしと同じ制服の子もいっぱいいる。
その中でダンボールを抱えて歩く違う学校の二人組は決して異質なんかではないのに、
あたしは怖いくらいの居心地の悪さを感じた。
「いえ、瑞樹先輩のこと、決して嫌いではないですから」
でもそんなことを思ってる、なんてバレてはいけない。
あたしはいつも男の子に向ける用の60%程度の笑顔を浮かべて首をかしげた。
大好きな瑞樹先輩の隣、なんてあたしにとっては浮かれてしまうことなのに、
怖いくらい落ち着いていて、不思議なくらい冷静なあたしがいた。
その答えは簡単。
瑞樹先輩が、あたしが話しかけたことを驚いた、と言った理由も簡単。
あたしと瑞樹先輩が、付き合ってないからだ。