愛してあげる!


昨日のことはあまりに衝撃的で、あたしの頭から離れることはない。

正直夕べはよく寝ていないし、今日は学校に来たくなかった。

みんなとキャアキャア騒いでいる間も、そんないつも通りの“あたし”をあたしはどこか客観的に見ていた。



「そういうこと言うと、期待しちゃうよ?」



その言葉をあたしは失笑ではぐらかす。

昨日の告白に、あたしは何故か反射で答えていたのだった。



───『ごめんなさい』



考えるよりも早く、あたしは頭を下げていた。

散々思わせぶりな行動を瑞樹先輩に取っていた自覚はあったし、

(もちろんそれはわざとじゃなくて瑞樹先輩を好きだからなんだけど)

付き合いたくて頑張っていたつもりだったし、

“謝罪”には瑞樹先輩もあたし自身もびっくりした。



───『あたし、瑞樹先輩のこと好きです』

───『・・・じゃぁ、なんで?』

───『瑞樹先輩はあたしの憧れで、好きな人で、大切な存在だから・・・そんな簡単に、手が届いたら困るんです』



まだ見ぬ誰かのためにあたしはずっと頑張ってきていた。

でも瑞樹先輩の隣に立つ資格は無かった。

隣に立てるほど、まだ“あたし”は完成していなかった。

一晩考えたあたしの出した断りの理由はそれだった。



「大丈夫、ちゃんと待ってるよ」



その理由を瑞樹先輩には言っていないけれど、瑞樹先輩は決してあたしを責めることはなかった。

昨日も、今と同じセリフを言ってくれただけ。

その大好きな柔らかく甘い笑顔に、あたしの心がズキンと痛んだ。



「・・・はい」



あたしの不思議はもう2つあった。

1つは、断る寸前に頭の中にある人の笑顔が浮かんだこと。

そしてもう1つは、

その人に、瑞樹先輩と付き合ったと嘘を付いてしまったこと───



(・・・拓巳・・・)


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