愛してあげる!
どうしてこんな時に拓巳の顔が浮かんでしまうんだろう。
意地悪で、冷たくて、人のことバカにしてるし、ヘタレだし。
見た目ばっかり良くって、頭は平凡だし、変なところでボケてるし。
あたしのことを誰よりも分かってくれていて、
あたしは誰よりも頼りにしてるけど、
(人の恋路まで、邪魔しないでよ)
瑞樹先輩が好き、と言ったときに真っ先に協力すると言ってくれた。
実際、今までいっぱい協力してくれた。
だから、申し訳なくて言えなかったのかな?
せっかく言われた告白を、断ったって。
(まぁ別にはっきり「OKしたんだ」とも言ってないけど)
そんな逃げ道を作るあたしはずるい。
もしバレたって、そう言えば優しい拓巳はあたしのことを責めきれないって分かってるんだ。
夏乃も、海斗君も、あたしより先に拓巳に話を聞いてしまったらしい。
・・・いや、それは夕べ一晩携帯の電源を切っていたあたしが悪いんだけど。
そのせいで2人にも言えなくて、ただ「4人だけの秘密にしてね」と微笑んだだけだった。
───あたしの相談相手は、居なくなってしまった。
「妃那ちゃん?」
「は、はい!」
「大丈夫?ボーッとしてたみたいだけど」
瑞樹先輩に顔を覗きこまれて「大丈夫です!」と答える。
無理しないでね、と微笑むキラキラフィルターの瑞樹先輩は格好良くって、
やっぱりあたしの心臓はきゅーっと苦しくなった。
「あ、あのっ!瑞樹先輩!!」
「ん?」
1人は苦しかった。
1人は怖かった。
どんなに高飛車に振舞ったって、結局あたしは弱虫なんだ。
今までどれだけ優しいみんなに甘えてきたか、身をもって知った。
たった一晩1人を経験しただけで、泣きそうになった。
瑞樹先輩と付き合ってしまえば、みんなについた嘘を本当にしてしまえば、
あたしは楽になれるのだろうか。