愛してあげる!
シスコン男子高校生の覚悟
‐Side:Takumi‐
コンッ
机に向かって明日の宿題に取り組んでいると、窓が鳴ったような気がした。
顔を上げるが、カーテンに仕切られたそこから何が見えるわけでもなく、
思考はすぐに三角関数に戻る。
サイン、コサイン・・・と呪文のように唱えていると、
コンコンッ
さらになる、ちょっと低いノック音。
無視無視。
気にしたらこの宿題間に合わねぇよ。
(長い文化祭休暇に入るから、という理由でまるで夏休みのような宿題が出されたのだ)
コンコンコンッ
聞こえない聞こえなコンコンコンコンコンコンコンコンコンコン「だぁぁぁぁうっせぇぇぇぇぇっ!!!!」
「やっほう、拓巳!」
この押しの強い幼馴染、誰か引き取ってくれないだろうかと切実に思う。
根気負けして窓を開けてしまった俺の前には、にっこり笑った性悪女。
お風呂上りなのかジャージ姿、もちろんと言わんばかりに髪の毛は濡れている。
「なんだよ」
「え、超冷たくない?」
「宿題やってんだよ、こっちは」
「真面目だねぇー。あたしが解いてあげよっか」
「全問正解したら逆に疑われるから遠慮しとく」
「え?全問わざと間違えるんだよ?」
「今すぐ帰れ」
冗談だよ、とケラケラ笑いながら彼女は結局俺の許可を得ることも無く部屋に上がり込む。
俺は肩を落として机に広げた教科書とノートを閉じた。
さようなら、数学。こんにちは、いじられる時間。
「拓巳、ドライヤー」
「俺はドライヤーじゃねぇ」
「あ、同じようなセリフ小学校のとき先生に言われたよね」
「───そうだったか?」
そうだよ!と妃那はコンセントに持参したドライヤーのプラグを挿しながら力説する。