愛してあげる!
ガチャリ
ドアノブを捻れば聞きなれた金属音が響く。
おそるおそる開けて、顔だけ入れて覗き込む。
まだベッドに横たわるピンクのジャージが見えた。
───ったく、明日はうるさそうだな。
まずなんで俺の部屋にいるかの追求に始まり、
マッサージや筋トレをやり損ねたことを嘆き、
そして俺に「拓巳のせいだ!」と無茶苦茶な言い分で付き合うことを頼むのだろう。
安易に想像できる妃那に、俺は一人小さく笑った。
音を立てないようにドアを閉めて、そっと妃那に近付く。
小さい頃と変わらない寝顔は幼く見えて、俺はそっとその前髪を掻き揚げるように頭に触れた。
「妃那───」
そんな明日の行動なんかは簡単に想像出来るのに、
どうしてお前の気持ちは分からないんだろうな。
そこまで分かってやれない俺が「妃那を守る」なんて偉そうなことを言えるんだろうか。
強気だけど弱くて、
わがままだけど一人で抱え込みがちで、
元気だけど泣き虫で、
そんな妃那だと頭で分かっていたのに妃那は言った。
───『どうして今になって気付くの?』
それは俺が“妃那”に気付いてやれなかったことが近い過去にあったことを表していて。
それにハッとしたからこそ、
妃那の「拓巳なんて嫌い」というよく聞く言葉が重くのしかかった。
「ん・・・」
不意に妃那が寝返りをうった。
起こしたかと顔を覗き込むが、妃那はくーと小さな寝息を立てて目を覚まさない。
ほんの少し開いた唇に、小さく笑う。
そんなときだった。
「みずき、せんぱ・・・」
その妃那の唇が、音を紡いだ。
「・・・ッ」
───あぁ、そうだ。妃那の隣にいていいのは俺じゃない。
妃那の寝顔を見るのも、
妃那の髪に触れるのも、
もう全て
───俺がしていいことじゃない───