愛してあげる!


「違うんだ、麻里! この子が俺に付きまとってしつこくて、

キスしたらあきらめるなんて言うから・・・っ!!」



え?なんて声を上げる暇も無かった。

彼女───先輩の教室で見かけたショートカットの女の人の登場から驚きの連続のあたしはまったく状況が飲み込めなくて。

だから、瑞樹先輩の嘘ばっかりのセリフにも、反応出来なくて。



───瑞樹、先輩・・・?



「ひどいよ、瑞樹・・・っ!!!」

「だから違うんだって。信じてくれよ」



瑞樹先輩はひどく慌てた様子で、言い訳じみた説得を泣き出した彼女に繰りかえしている。

その姿をボーっと見つめつつ、ゆっくり思考が正常に作動し出した。

あぁ、もしかして。

9割方確信の予感がジワジワあたしを占めていき、そしてそれが肯定に変わるのは時間が掛からなかった。



「俺には麻里だけなんだからさ」



瑞樹先輩の言葉が、静かな空間に響いた。

ざわめきすら遠くて、時間が止まったように感じた。



───あぁ、やっぱりそういうこと。



私の中の何かが、一気に冷めて行く。

この人は、麻里さんは、瑞樹先輩の───彼女。

それなら納得がいく。

あの時彼女から送られてきていた強い視線の意味も、

彼女が抱いた敵意も。

瑞樹先輩がデートで遠出を選んだのも、

帰り道にあたしを家まで送ってくれないのも、

こうやって呼び出すだけで校舎では一緒にいないのも、

瑞樹先輩が麻里さんにした遠まわしなあたしの説明も。

洋平先輩も、きっと気付いていた。

だから、時々気まずそうな顔をしてあたしを見ていたのだろう。



考えれば簡単なこと。

気付かなかった、あたしがバカだったんだ。

瑞樹先輩の本当の姿にも気付けなくて、

ただ浮かれて、自分のテクニックと容姿に自惚れて、

あたしは───・・・


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