愛してあげる!
「アンタねぇっ!!」
突然投げかけられた強い声にビクッと体が震えた。
顔を上げると、般若の如く顔を歪めた麻里さんが仁王立ちして上からあたしを睨みつけている。
小さく震えているのは怒りのせいに違いない。
その瞳の奥にある憎悪は、前に教室で突きつけられた瞳よりもずっとずっとあたしに突き刺さった。
「アンタ、瑞樹には私がいるって知ってて近付いたの!?」
「ちがっ、あたしは!」
「言い訳なんてしないでよ!!」
違う、本当にあたしは知らなかったのに!
必死に麻里さんに事実を告げようとしたのに、麻里さんは怒りの勢いのままヒステリックに叫んだ。
あたしの声は、届かない。
彼女の後ろにいる瑞樹先輩はと言えば、無関係だとでも言わんばかりに視線を逸らしていた。
「可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ!!
人の彼氏取っていいと思ってんの!!?」
離れているとは言っても、メイン部とはそこまで遠くない距離。
麻里さんの声が響いたらしい、「なんだなんだ」と言うように段々見慣れた制服の人たちが集まってくる。
瑞樹先輩が、逃げるようにギャラリーの片隅に紛れ込む。
麻里さんの怒りがギャラリーなんかで収まるはずも無く、人だかりは大きくなるばかり。
───完全な見世物だ。
「瑞樹とはね!私ずっと付き合っているのよ!!
アンタなんてどうせ男なら誰でもいいんでしょう!?
ちょっと顔がいいからってなんだって手に入ると思ったら大間違いなのよ!!」
あたしはもう反論する気も失せていた。
すべてがどうでも良く思えた。
麻里さんの言葉を一方的に受けるしかなかった。
だから、
みんなが誤解するのも、
仕方が無い。