愛してあげる!
「バカか、てめぇは」
視界が真っ暗になって呆然とするあたしの頭に、聞き覚えのある・・・ううん、ありすぎる声が響いた。
その声の主の姿は見えなかったけど、
人ごみが割れ、真っ直ぐこちらに歩いてくる姿が徐々に見えてくる。
「拓、巳・・・」
拓巳は臆することなく人ごみの輪の中心にツカツカ入ってくる。
さっきまで煩かったざわめきが、今は水を打ったように静か。
ただ好奇の視線で新たな乱入者の動向を見つめていた。
「お前、ホント男見る目ねぇな」
目の前に部活の大先輩がいるにも関わらず、拓巳は彼をまるきり無視してあたしの前に立った。
その呆れた口調と表情は、悔しいまでにいつも通りで。
ずっとあたしのこと無視してたじゃない。
アンタがあたしのことウザイって言ったんじゃない。
言いたいことはいっぱいあったけど、
拓巳の姿を見ただけで言葉に出来ない安心感が胸の奥から溢れてあたしは声が出なかった。
「いや、違ぇか」
「?」
泣きそうになっているあたしの顔を一瞥すると、拓巳はフッと軽く笑ってあたしに背を向けた。
「瑞樹先輩のほうに、女見る目がねぇんだな」
「なっ!!」
遠くの瑞樹先輩が声を上げる。
「拓巳!」と止めようとしたあたしの口を、彼は人差し指一本で黙らせた。
そして、その手があたしの手を掴む。
「こんな見た目も中身もいい女分からないなんて、バッカじゃねぇ?」
拓巳はあたしの手を掴んでいるけれど、
あたしを自分の後ろに隠して瑞樹先輩を向いているからその表情は見えない。
───でも分かるよ。幼馴染だもん。
拓巳、怒ってる。
拓巳、怒ってくれてる。あたしのために。