愛してあげる!
声の主は海斗だった。
基本席替えは自由席、ということもあって俺と海斗の席は前後。
前の椅子に座りながら、海斗は「いいの?」と首を傾げた。
「は?どういう意味だよ」
「妃那、かなり本気っぽかったけど?」
「別にいいんじゃね?こないだ、アイツ自分に初恋がまだだとかかなり気にしてたし」
成長成長、とふざけて笑いながら俺は頬杖をついて海斗の顔を見る。
けれどコイツは表情1つ変えることなく、真顔で真っ直ぐ俺を見つめていて、
そのらしくない様子に「なんだよ」と苦笑半分に聞き返す。
「妃那の性格なら、十中八九天沢先輩と付き合うと思うよ?」
「だろうな・・・まぁ、アイツかなりテンパってたから今まで通り行くかは別問題だけど」
「天沢先輩も結構妃那のこと気に入ってるっぽい感じだったけどね?」
「妃那の毒牙に掛かったことにご愁傷様だな」
「・・・」
「・・・」
「・・・なら、いいけど」
淡々と、まるで夏乃のように喋る海斗の言葉の真意が分からなかった。
けれど、とりあえず素直に俺が応答していると、
海斗は身体中の空気を抜ききるようなため息をついて俯き、
たった一言だけ呟いた。
「さっきからなんなんだよ、海斗」
「別に?拓巳がどこまで本気なのかなーって思っただけだよ」
少し苛立ちを交えた俺の言葉へ答えながら上げられた海斗の顔は、いつも通りの読めない笑顔に戻っていた。
ただ、その分からない言葉の意味も、さっきの表情も、読めない顔も、やっぱり俺を不快にさせるだけで。
かなり機嫌が悪い顔をしていたらしい。
「俺が悪かったからそんな顔しないで」と海斗は困ったように眉根を下げた。