愛してあげる!
───・・・事実、学校が見えてくる次の角を曲がる頃には、拓巳はあたしを追い越していた。
視界で揺れる、長くも短くもないオレンジがかった茶髪の後ろ姿。
いつもあたしは背中を見てる。こうやって。
一方のあたしはもちろん息切れ。
自分の体力のなさが憎たらしい。
普段は女の子らしさアピールにおおいに役立つんだけどね。
拓巳に負けるときだけは、こ の う え な く!!「あぁ、もっと体力があったらな」とついつい後悔。
そんなこと言えば、
「スポーツは体力と筋力と精神力と、って全部そろってこそなんだよ」
と悪態つかれるんだろうけど。
「妃那、もうへばったのか?」
あたしを追い抜いた拓巳が振り返りながら、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
悪戯っぽくて、そして勝ち誇った顔。
楽しそうで、イキイキしてる。
ちょ、調子に乗って・・・!!
あたしは息切れしながらも叫びたくて、肺いっぱいに酸素を吸い込んだ。
「あったり前でしょ!?あたし料理部だし女の子だし!!!」
「んー?料理部の次なんか言ったか?」
「聞こえてるでしょ、ふざけんな!!」
「その口調が女じゃねぇって言ってんだよ!!」
馬鹿だな、お前。
そう言った拓巳の目がきゅっと細くなった。
───・・・知ってる。このクセ。
拓巳が「楽しい」って思ってるときの笑い方。
そう思うと、あたしも口元がふよ・・・と緩んだ。
だけど、そんなこと拓巳に悟られたくなんてなくて、
あたしが拓巳のことわかるように拓巳にもばれてるんだって分かってたけど、
それでも一回唇を舐めてからすぐに悪態を付き始めた。