短編集
遠い日の記憶。
2人だけの秘密が、楽しくてたまらなかった頃。
そういえば、今日は俺の誕生日だったな。
紗耶は知ってたんだよな、俺の誕生日。
あの頃は、暗号だよ、とよく紗耶と手紙交換したっけ。
他の人には分からない、と――
あ。
4時間目に紗耶が飛ばしてきた紙ヒコーキ。
バックの中から慌てて取りだす。
紗耶からもらった物なので、綺麗に折りたたんである。
それを広げる。
「お前、今の席って、
ボーズの隣だろ?
えくぼが縦に並んで
てかてかっと光って
るの知らなかったろ
?バーカ
紗耶」
実際、今の俺の席の隣は女子だ。
女子でボーズは在りえない。
紗耶が言いたい事って……。
文の3行目、
“縦に並んで――”
紗耶と手紙交換していたあの頃、暗号化して手紙を書いていた。
2人だけの秘密と称して、横ではなく、縦に本当の意味を込めていた。
つまり、この手紙は――
「“お、ぼ、え、て、る、?”」
おぼえてる?
何のことだ?
思い出せ。
何故だかは分からないが、コレを思い出せなかったら、一生紗耶に軽蔑されてしまう気がする。
大事な約束だったはず。
『これはいつ開けるの?』
『高校生になった、ヨシタカの誕生日!!』
あの頃、俺と紗耶がそう話していた。
『絶対、覚えててね』
紗耶が、まだ幼さがある、最高の笑顔で、俺に言っていた。
紗耶は、覚えてたんだ。