短編集

小さい頃の約束といって、俺は記憶の片隅にも残しておかなかった。

忘れてた。

だけど。

いつも、俺に暴力を振るってくる紗耶は、しっかり覚えてた。

俺、バカだ。

紗耶のことを好きだとか言っておいて。

紗耶にそっと近づく。

紗耶は一心に土を掘っていて、後ろに立っている俺に気づかない。

あの時、俺の誕生日に開けると言っていたモノ。

高校生になった俺の誕生日に開けると約束したモノ。


「……タイムカプセル」

「……!!ヨシ……タカ?」


珍しく、彼女は目を見開いて驚いていた。

土にまみれた彼女の手にある、錆びたアルミ製の箱。

そうだ。

あの中に、手紙、入れたんだっけ。


「……中身、手紙だよな?」

「……覚えててくれたんだ……」


紗耶はうつむきながら、消え入りそうな声で言った。

普段の彼女からは考えられないな。

怒声も、暴力もなし、か。

昔の紗耶は、こんなかんじだったけ。


「引っ込み思案だったよなあ?」

「……黙れ」


小さく命令形で話す紗耶。

全然恐くないぞ。

紗耶の手から箱を受け取り、笑う。

紗耶がじーっとこちらを見つめてくる。

期待のこもった目で。

蓋を掴み力を入れるが、錆びていて開けにくい。


「っく……」


ばきっと鈍い音がし、蓋が真っ二つになった。

とりあえず、開いたからいいか。

紗耶は微妙な顔をしてるけど。

中から、手紙が2通出てきた。

少し、汚れている。

あ、汚したのって俺か?

さっきの、ばきっで。
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