短編集

「汚しちゃったね……」


俺の顔を見て、紗耶がほほえんだ。

見ているもの全てを魅了しそうな、幸せそうな笑顔だ。

紗耶のこんな笑顔を見たのは久しぶりだ。

上に重ねてある方の手紙を手に取る。

封筒に封はしていない。

かさっと音を立てながら、中の便箋を取り出した。


“あなたには守りたいものがありますか?”


1行目に、整った綺麗な字でそう書いてあった。

おそらく、紗耶が書いた物だろう。

ドラマか何かで、同じ文面を見たこと歩きがする。

2行目には、1行目と同じ字体で、


“YES.”


紗耶の字だ。

その下の3行目には、荒っぽいが丁寧に書こうとしたことがわかる、一言。


“コイツ”


俺が書いたものだ。

この頃から紗耶が好きだったんだなあ。

感傷に浸っていると、紗耶が、小さく溜息をついた。

何故だろう?

次の質問はこうだ。


“あなたの守りたいものはなんですか?”


もちろん、俺は紗耶と書いてあるはずだ。


“義隆”


……紗耶に守られても困る。

そそ下の俺の文字を見る。


“初回限定版のこのコミック!!”


……。

バカだな。

紗耶が溜息をついた理由が分かった。

この頃の俺ってバカだったんだな……。

気を取り直して、次の質問を見る。


“あなたは守りたい物のためにどんな努力が出来ますか?”
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