君が、イチバン。
ザッザッとアスファルトを踏む音だけがして、気付けばもう店の前まで戻っていた。
結局、コーヒーも買わず、帰り道も無言で、ただ手だけは離さず繋いで歩いた。
「ありがとうございました」
さっきの絞り出すような声じゃなく、今度ははっきりと。前を向いて一条さんと目を合わせる。いつも微笑んでいるガラス越しの瞳は今は淡い色の中に私を映していた。
「いえ。またご一緒しましょう」
淡々とした口調。明らかにおかしな態度を一条さんはまるで気にしてないみたいだ。
大人だな、と思う。
「…何も聞かないんですか?」
私の言葉に一条さんは、まるでその質問を知っていたかのように笑う。
「話したいですか?」
もう、本当、嫌な人だ。
繋いだ手の温もりが優しくて突然の再会に動揺していた私は今誰かに甘えたかったのかもしれない。甘えるな、と突き放された気がして繋いだ手を離した。