君が、イチバン。
瑛ちゃんに出会ったのはこの頃だった。
きっちりしたスーツを着こなして、いつも飄々とした笑みを浮かべる。ふわふわの猫毛がその容姿を人懐こい印象にしていて、女性に優しい。だけどどこか一線を置いた様な人。
「君が新人さん?」
やっと仕込みが終わって「遅いかたつむり」と怒鳴られて「いいからお前は接客してろ」と厨房を放り出されたその日、気分は最悪で、それでも必死に笑顔を張り付けてカウンターに立つ私に、微笑みかけたイケメン。
ぺこりと頭を下げた私にその人は、
「うん、君は大丈夫だね」
と笑いかけた。
何がだ、と頭のハテナマークは顔に出てたんだろう、その人は苦笑する。
「君が作った第一号は是非僕に食べさせて」
綺麗に微笑むその人になんだか無性に腹が立って、
私が任される第一号など永遠に来ませんが、よろしいか。と毒付いたのを覚えてる。子供だったのだ。ムシャクシャしてたし、瑛ちゃんはこの頃からすでに何を言ってもウェルカムな雰囲気だったし、と言い訳してみる。だけど、瑛ちゃんは、
「いつまでも待つよ、絶対食べられるから」
と何の根拠もなく自信たっぷりに言って帰って行った。