君が、イチバン。

「気にしないで下さいね?」

一条さんが振り返る。

四宮君の態度なら気にしない方向でいくから良いです、なにあの態度と思ってますが口には出しませんよ、という声を飲み込むように頷いておいた。


「四宮君は性格が曲がってますからね、意味不明な言葉は忘れて下さい」


一条さんは丁寧な口調と爽やかな笑顔でさらっと毒を吐く。

「はあ」

キラキラ過ぎるベストスマイル。美形の微笑はやっぱり綺麗。よし、忘れたー。




「お疲れ様!」

そんな空気をあっさり割いたのは、元気のよい通る声。
レストランは閉店時間が早いから、今日は一階のヘルプについていたらしいゆかりさんだった。


「清くん、若ちゃんが可愛いからって手を出しちゃ駄目よ」

清くんは一条さんの名前。多分一条清一郎だった筈だ。ゆかりさんの含み笑いは四宮君と同じ種類のものだった。

「…全く。いい加減にして下さい」

一条さんは呆れたように言う。


「冗談よ!清くんそんなに手が早くないもんね。だけどみんな何故か清君の事好きになるのよねー、大好きになるのよねー」

ニシシ、と吹き出しをつけたい笑い方をしたゆかりさん。
え、なになに。一条さん狼なの。似合わないけど、近づいたら食べられちゃうの?

だけど、一条さんの反応は極めて冷静だった。

「二度目はありませんよ」

微笑したままだけど有無を言わせない口調。いい加減にしろという事だ。氷点下の笑顔。こわい。ゆかりさんも思わず口をつぐんで、すぐに「冗談だってば!」と笑顔を作って手を振る。よし、また忘れたー。

話はそれで半ば強制的に切り上げてそのまま帰宅した。

ゆかりさんや四宮君の一条さんへの対応は『副支配人』っていう壁を作ったものじゃなかったから、誰に対しても穏やかな一条さんはきっと慕われてるんだろう。
物騒な話は忘れることにしたから問題ない。





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