君が、イチバン。
駆け寄って、救急車を呼ぼうとした私に奈津美さんが青白い顔で大丈夫だと言う。大丈夫なわけある筈ない。
「病院行きますよ!立てますか⁉︎」
「大丈夫だから!放っておいて!」
頑なに動こうとしない奈津美さんに、私は急いで鰐渕さんを呼んだ。
「奈津美さんが…早く来て下さい!」
体調を崩したのも、もしかしたら私のせいなのかもしれないと思うと手が震える。
鰐渕さんは、状況をみると奈津美さんを抱きかかえた。
「奈津美は大丈夫。部屋行くわ。若咲、おまえは来るな。すぐ戻るから店、頼むぞ」
心配そうに集まるスタッフに鰐渕さんは
緊迫した状況を感じさせずそう言って笑う。奈津美さんは鰐渕さんにしがみついていて、表情は見えなかった。
二人を見て、みんなが「すごいね、相思相愛っていうやつだね」と感心している。
まだ震える私に長く勤めているパティシエが近づいて、「なっちゃんね、時々あーなるよ。結構不安定な人だから。オーナーは精神安定剤みたいなもの。だから、邪魔しちゃだめだよ」
分かってるよね?と聞かれて、なにが、と思った。
陰口も悪口も我慢できた。だけど、鰐渕さんに否定されたら崩れてしまう、私は動揺するのを必死に堪えた。
おまえは来るな、とはっきりと拒絶されたのに、オーナーの部屋に向かった私は馬鹿なんだろう。
両手が塞がっていたから閉められなかったのかドアが少しだけ開いていた。
見なければ良かった、と思った。
ううん、見て良かったのか。
部屋の中で、鰐渕さんと奈津美さんが抱き合っていた。背中を向けている鰐渕さんの顔は見えない。
だけど、今度は、はっきりと目が合った奈津美さんが、ニコリと笑った。