君が、イチバン。
◆◆◆
「若ちゃんおはよ」
出勤してすぐ、カラオケ担当組の沖君が愛想よく挨拶する。『若ちゃん』はいつの間にか私に定着しているみたい。
「おはよう」
人懐っこい沖君は私よりひとつ年上だけど子供みたいに無邪気だ。耳それ痛くないの?ってくらいピアスをつけてる。
やっぱりモテるみたいでいつも違う女の子が沖君に会いに遊びにくる。さっきも数人の女の子に囲まれてたし。
「岡本くん、休日休みだからよろしく」
沖君はニカッと笑った。
「ゆかりちゃんが、一条さん怒らせちゃったってぶつぶつ言ってたけど何かあった?」
昨日の事かな?不機嫌だったけど怒ってるようには全く見えなかったからピンとこない。
沖君は開店の準備をしながら私に話続ける。
「一条さん、基本的に優しいし」
入社五年目の沖君は正社員だし色んな情報を知ってる。
「仕事も出来るし支配人より頼られてるから。それにかっこいいじゃん?眼鏡似合いすぎっしょ?眼鏡選手権一位だよね」
なにその選手権。ふざけたように笑ってから声を低くすると私にゆっくり近付いた。
「…だけどあんまり仲良くなっちゃ駄目だよー」
耳元で呟く。距離が近くてくすぐったい。
「…なんかあるんですか?」
昨日の四宮君とゆかりさんの含み笑いを思い出す。やめてくれ、忘れたんだぞ。
「んー。どうかなー」
沖君は曖昧に語尾を濁すと鼻唄を歌いながら「ちょっと遊びにいってきまーす」と一階へ降りていった。