君が、イチバン。
厨房に案内されて「足りないものがあれば言って下さい」と一条さんは材料を備蓄している冷蔵庫を開ける。
有名ブランドのクーベルチュールが置いてあって、やっぱりちゃんとしたシェフが作るべきなんじゃないかと尻込みせれば、後ろで一条さんが、出来ないならやめても良いですよ、みたいな顔で微笑んでいる。悪魔だ、悪魔。
「なにか手伝いましょうか?」
あとどのくらい時間があるのか分からないけど、一人でより分担したほうが作業は早いだろうから素直に頷くと一条さんは満足するように笑う。なんだかな。
ギャルソンの曽根君にも手伝ってもらって、そのうち支配人だという人も来て、軽量や混ぜるのを指示しながら調理を始めた。
バレンタイン、そのフレーズに苦笑する。またこのケーキを作るとは思わなかったけどレシピは正確に頭にある。
全く同じ物を作る訳にはいかないから、仕上げの段階では一条さんにも意見を聞いた。