君が、イチバン。
「待たせてごめんね」
「いえ、全然待ってません」
今日も寒いね、とか簡単に挨拶を交わしてウェイトレスに飲み物を頼んだ。
それから、近況報告をする。緊張していた私とは対照的に奈津美さんは終始リラックスしているようだった。左手に光る指輪を見て、二人は上手くいってるんだと冷静に思える事に安堵した。
「ずっとね、会いたくなかったの」
不意に奈津美さんが小さく言った言葉に緊張が走る。
「椎那ちゃんが辞めてから、いい気味だと思ってた。わに君を見る度自己嫌悪を繰り返した、酷い女だと思う。その通りだもの。あのね、あの時付き合ってたなんて嘘よ」
ああ、聞きたくない。
耳を塞ぎたくて耐えるように唇を噛む。
懺悔ならいらない。
「お付き合いしていたのは本当だけど、椎那ちゃんが入ってから暫くして別れたの。でも私、別れたなんて思いたくなかった。事実、椎那ちゃんとわに君が近付く頃まだ体の関係だってあったし。悔しかった。ツラくて、しんどくて」
奈津美さんの独白は、私をゆっくり追い詰める。なんで、今、それをゆうの、と。
「奈津美さん、もういいです」
過去は清算出来てない。だけど、それは感情じゃない。終わり方だ。何も理由を聞かず、何も問い詰めず、自分で解決しようとした。誰かが嘘をついてるなんて分かってた。だけどそれと向き合うだけの感情が、強さがなかったのだ。
「初めから、私は奈津美さんに負けてました。今奈津美さんが言った事が本当ならそうまでして鰐渕さんを取り戻したかった気持ちに私は向き合えなかった。ぶっちゃけびびったんですよ。はは、それに鰐渕さんだって私を追わなかった。それが答えです」
これ以上惨めになる前に、私は笑う。確かに好きだった、だけど鰐渕さんには彼女がいた。それで良い。責める事の出来る誰かに責める理由がなかったなんて思わせないで。