君が、イチバン。

「ほんとに…いい子ね、椎那ちゃんは。わに君だってきっとあなたを追いかけたかった。だけど、出来なかった。あの後わに君のお父さんが亡くなって、少し忙しくてね。わに君だって完璧じゃないの。不器用な人だから」

お父さん、亡くなったんだ、鰐渕さんから聞いた話を思い出す。実家の和菓子屋はどうなったんだろう。

「…和菓子屋はどうなったんですか?」

私の質問に奈津美さんは驚いた様に目を開いた。

「知ってたの?そう…うん、和菓子屋はね、閉めたの。わに君も迷ってたんだけど、親父の元で修行してない自分に跡は継げないって。急だったから…」

「そうですか…」

大変だったんだろう、と思う。きっと店を閉めるなんてしたくなかったんじゃないか、だってあんなに好きだったのに、ああ、もう、なんか頭がぐちゃぐちゃで、だけど、


「….傍にいたんですね、」

鰐渕さんが、一人じゃなくて良かったと思う。奈津美さんの左手の薬指に光る指輪を見つけて、どこかで安心した自分もいた。完璧な人じゃないなんて分かってる。そんなの、分かってる。
寄りかかる誰かがいて、それは逃げ出した私じゃなくて奈津美さんだった。それだけの話だ。

「やっぱり、私じゃ駄目だったと思います。奈津美さんが傍にいて良かった」

最後は少し自分に言い聞かせるように私は真っ直ぐ奈津美さんを見つめた。




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