君が、イチバン。

休憩時間になって、急いで車のエンジンをかける。おなかもすいた。が、お金がない。
瑛ちゃんにいるかな?仕事かもしれない。とりあえず取りに行って、いなかったらとんぼ帰りでいいや。

ーーー後で考えれば、この時点で電話して確認したら良かったのに、と思う。


ーーーー
瑛ちゃんのアパートの前。車があるのを確認してから階段を上がった。雲がどんよりしていて、肌を刺す冷たい空気に雪が降りそうだな、と思う。
二階の彼の部屋の前でインターホンを鳴らすけど、中々出てこない。
やっぱりいないのかな、電話してくればよかったな、とか思ったけど時すでに遅しだ。


仕方ないから瑛ちゃんの携帯を鳴らして、無機質な電子音が鳴り響く。その内留守電に切り替わって、中でガタガタと音が聞こえたからやっと気付いたみたいだとホッとした。
ドアが開いたら、早く出てよーと財布を忘れておきながら理不尽に文句を言ってやろうと思った口がその形のまま止まってしまった。

ガチャンと築15年のまだ綺麗な扉が開いて、私の目に飛び込んできたのは瑛ちゃんじゃなくて、



ベリーショートがよく似合う綺麗な女の人。



「あら…?やだ、瑛太?お客さんだけど!」


誰?とか思うよりも先に、場違いに綺麗な人だな、と思った。高級ホテルのロビーで優雅にエスプレッソを飲んでそうだ。


「ごめんね?今瑛太シャワー浴びてるから、どうしよ?中で待ってる?」


まるでジーン・セバーグの様なその人は困った笑顔で首を傾げた。

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