君が、イチバン。
逃げる様にアパートを後にした私は車に乗り込んでシートにゆっくりと座り込む。まだバクバクと心臓が走っていて、ぼんやりしたのは、初めて瑛ちゃんから『彼女』の存在を感じたから。
ハンドルに頭をもたれかけて、落ち着けと深く息を吸って吐く。
なんで、こんなに動揺するの?わけわかんないんだけど。落ち着け、落ち着け。
すぐに車を発進できなくて、停まる私の車のウィンドウをトントンと叩く音がして顔を上げた。
ウインドゥを開けて、息を切らす彼を見上げる。
「…しいちゃん」
外はひどい寒さなのに濡れたままの髪でシャツとズボンだけの瑛ちゃん。寒さに弱い人だから、そんな格好で外に出るなんて馬鹿だな、とか現実逃避してみる。
分かってる、慌ててきてくれたんだ。
「ごめんね?」
瑛ちゃんの困った様な笑顔。
「ううん、私こそ。邪魔しちゃったね?」
上手く笑えてるかなんてどうでも良くて
「財布、ありがと」
瑛ちゃんの目も見ずにその手に持つ私の財布を取り上げた。