君が、イチバン。
「それで、何くんだったかな?」
「…四宮です」
「四宮君ね、僕は『えいちゃん』でいいよ」
すぐに目についた喫茶店に入って。入り口の近くに腰を降ろしてから、瑛太は無表情を張り付けた四宮に微笑む。
「無口だね?」
黙り込む四宮を愉快そうに眺めながら彼はコーヒーを飲む。
「…仕事は忙しいですか?」
四宮は、居心地の悪さに仕方なく当たり障りない質問した。勿論、気に食わない相手だろうが目上の人物に対する敬語くらい使える。以前は自分の感情も掴めず動揺していたのだ。
「今日は暇な筈だったんだけどね」
「いいですね」
「うん。美少年とコーヒータイムなんていい時間を過ごせてるよ」
やはり掴めない人だと四宮は思う。いつか椎那を連れ帰った時の氷の様な空気は全くない。自分に対しても柔らかで棘など一切感じさせない。
「『瑛太』さん、…今のは彼女ですか?」
「んー…?どうだろね?」
ニコニコする彼は答える気はなさそうでむしろこの会話を楽しんでいる様に見える。四宮はこの手のタイプは苦手だ。椎那にしても瑛太にしても、どうしてこう、結び目を複雑にするのだろうかと思う。自分なら、さっさと感情を口にするだけだ。
過るのは勿論、椎那の事。あんな顔をしてあんな話を出したのは、恐らく目の前のこの人が原因じゃないかと思う。さっきまで隣にいた女性を見て、ああ『本物のペット』か、と半ば確信さえしたのだ。
「椎那とはどういう関係ですか?」
何の前置きもなくその名前を出すが目の前の瑛太には少しの動揺も見られない。
「どうゆう関係でいて欲しい?お兄ちゃん、それでもいいんだけど」
困ったな、と全然困ってなさそうに笑う瑛太の緩い雰囲気に、四宮はハァと息を吐く。飄々とした感じは椎那に似ている。その癖、男の自分でもドキリとしてしまいそうな危うい色気がある。