君が、イチバン。
「あら」
タイトで鮮やかな色の服を着こなすその人の声が落ちた。
トイレから出た瞬間、目の前に一人の女性。そりゃあ同じ店にいるんだからトイレのタイミングが同じになっても仕方ない。甘い香水の匂いが辺りに充満する。
頭を下げて、通り過ぎようとした私を彼女は気の毒そうに見つめた。
「この間の方よね?あなたも大変ね?他の男を連れてきて気を引きたいの?でもそんなんじゃ瑛太は落ちないわよ」
フフ、と笑う仕草は決して嫌味でないのに優位に立っている人がする笑みだと思う。
「瑛太はね、優しいから。昔から時々あなたみたいに勘違いしてしまう子もいるの。でも大人なんだから割り切りましょうね?」
口調はゆっくりなのに刺々しいのは牽制なのかもしれない。
瑛ちゃんの隣に当たり前の様に存在する彼女には私はきっと目障りで。
目の前の女性とあの日の奈津美さんがだぶる。
私はいつも邪魔者で、だけど。
「…お気遣いありがとうございます」
ぺこりと頭を下げて背中を向ける。それから振り返って、
「あ、瑛ちゃんが香水苦手なの知ってました?いつも仕事から帰ったらシャワー浴びるか服脱がないと眠れないんですよ。本当、手がかかりますよね」
ニコリ、と笑った。