君が、イチバン。

「え、いちゃん」

手を繋いだまま、まだ営業しているスナックの看板前を通りすぎる。角を曲がったり、真っ直ぐ歩いたり、その間ずっと無言だ。こんな瑛ちゃん見たことなくて、ばくばくと心臓が焦ったように走り出す。

「…乗って」

店から離れた場所、契約している駐車場なのか瑛ちゃんの車が停まっていた。

「今日は飲んでないから。送ってく」

「いや、仕事中じゃないの?」

それに、あの女の人は。トイレからまだ戻ってなかったみたいだけど、戻って瑛ちゃんがいなかったらまずいんじゃないのか。

「いいよ。自由にしていいって約束だし、もうすぐ閉店だから」

なにそれ、とか思ったけどあーゆうとこの仕組みをイマイチ知らない。


「…四宮君が気になる?」


瑛ちゃんの表情からは何も読みとれない。だけど、不安をかきたてられるようなそんな、声。


「…誕生日だったのに、置いてきちゃったじゃん」

気にならないと言えば嘘になる。


「誕生日?昨日でしょ?向坂君達と来てたらしいけど?」


…くそう、美少年め。昨日だから許容範囲の嘘なのか。

「祝ってあげてた?」

全く別の事を考えていたのに、瑛ちゃんか今度は、はっきり揺れる瞳で私を見つめる。

「…ううん、そうじゃなくて、」

元々の目的は瑛ちゃんだったんだけど。今こうして向き合うと、言葉が出なくて焦る。

「やっぱり、余計な事だったかな」

寂しそうに笑う瑛ちゃんに、私は小さく「違う」というのが精一杯で。




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